Text by : 八幡浩司(24x7 RECORDS)

Photo by : 宮田維人 / 八幡浩司


 OGA ー。関西を拠点に世界で活躍するサウンド・システム、JAH WORKSの中心人物。昨年の「WELCOME TO JAM ROCK」での快挙も記憶に新しい現在の日本を代表するセレクター&MC。5月25日には東京・渋谷でJAH WORKS主催&単独イヴェントの開催も決定と精力的に前進し続けるOGAに話を聞いた。


サウンド・クラッシュ・チャンピオン ー。

●昨年12月の「WELCOME TO JAM ROCK - REGGAE CRUISE」でのサウンド・クラッシュ「CLASH AT THE SEA」での優勝は大きな転機となったと思います。

OGA「自分の中では変わってはいないんですけど、周りからの反応が優勝した以前と以後では変わりました。優勝の後にジャマイカでもプレーしたんですけど、自分を『チャンピオン』として知ってくれていたり、その後にロンドンに行った時もラジオから『チャンピオン』として取材されるようになったりして、自分の認知度や扱われ方、周りからの態度が変わった感じがしています。正直、日本よりも特に海外での方が変わった感じはしてます。もともとサウンド・クラッシュに出ることにしたのは自分の存在を知ってもらうためで、認めてもらうにはサウンド・クラッシュが一番てっとり早いと思ったからなんですけど、それでこれまでも『WORLD CLASH』や『REGGAE SUMFEST』とかの海外の大きなサウンド・クラッシュにも挑戦してきたんですけど、今回に初めてそうした海外の大きなサウンド・クラッシュで優勝してみて、実際に『こんなに変わるんか?』と思うぐらいに変わりました。まだまだここからですし、海外でプレーしていく上でもっと語学力、パトワを日本語で話すのと同じような感覚で話せるようにしたいとか課題はありますけど、今回の優勝でこれまでとは変わった気はしています」。


●「サウンド・クラッシュが一番てっとり早い」は理解できますが、OGAさんはサウンド・マンであると同時にラスタでもあります。ユニティーよりも潰し合い、DISやCUSS、罵詈雑言が飛び交うハードな戦いの場となるサウンド・クラッシュに出ることには抵抗はなかったんですか?

OGA「ないことはないですし、そこは常に葛藤し続けている部分です。『どこまでやっていいもんなのか?』は常に自分の中で戦っていて、まずは自分の中でその戦いをして、それからサウンド・クラッシュでも戦って、という感じです。普段にラスタのメッセージを届けていて、そのレベルを超えることはしたくない、というのはあって、その中でどう戦うのか?、は常にあります。サウンド・クラッシュに出る以上はそこで結果を残さないと意味がなかったりもしますし。なんでも有りで勝てばいいと言う人達もいますけど、自分はそうではないと言うか、自分の美学でどこまで戦えて勝てるか?、という感じだと思います。そのバランスが難しいです」。


●所謂BADな曲では戦わない。

OGA「でも、自分の中にもBAD、それは『悪い』の方ではなく、ジャマイカで言うもう一つの『ヤバい』方の意味でのBADの感覚はありますし、そうしたリアルを歌った曲のBAD(ヤバさ)には惹かれますけど、それとコンシャスな部分とのバランスが絶対大事やとは思っています。その難しさだったりもします」。


●サウンド・クラッシュではない、普段のプレーでもそうした葛藤はありますか?

OGA「普段でも自分としてはプレーしたくない曲もありますけど、それを求められることもあるので、そうした葛藤や難しさはいつもあります。ただ、自分がラスタであることは自分のライフ・スタイルではあるんですけど、一人のセレクターとしてレゲエを伝えたり知ってもらうためにはもう少し柔軟であっても良いかな、とも最近に思い始めています。勿論、自分が最終的に伝えたいのは自分のコアな部分であるラスタのメッセージなんですけど、それをいきなり伝えるのは特に日本ではラスタが浸透していないこともあって難しいですし、伝わらないのにそれだけをずっとやり続けていても意味がないと言いますか、ただの自己満(自己満足)になってしまうので、まずはその入口としてレゲエをちゃんと知ってもらえるように、興味を持ってもらえるようにプレーをしていくようにはしています。あと、もう20年以上聴いてきてますけど、最近のジャマイカのダンスホールはさっきに言ったバランスがこれまでにないぐらいに崩れてるようにも思っていて、それを戻したいとは思っています。そうですね、BADの方に振り切れてしまっているのでコンシャスな方、ポジティヴな方へと戻したいと思ってます」。


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サウンド・マン ー。

●初めてちゃんと話す機会ですので、少し基本的なことを確認させてください。そもそもどうしてセレクター、サウンド・マンになったんですか?

OGA「もともとは普通にJ-POPとか聴いたりしていたんですけど、その後のヨーヨーですね」。


●ヨーヨー? あの遊びのヨーヨーですか?

OGA「そうです、子供の時にヨーヨーが流行っていたんですよ。それで、ヨーヨーの流行はハワイからだったんですけど、ハワイからヨーヨーする人達が来てそれをデモストレーションするようなイヴェントに行った時に、彼らがヨーヨーをする後ろで洋楽が流されていたんです、EARTH WIND & FIREとかSTEVIE WONDERとか。それをハワイの同世代の人達が流していたのが格好良く思えて、それで洋楽も聴き出したんです。家には親父のレコードがあって洋楽を聴き始めましたけど、レゲエもあったので中学の時にはもうレゲエは聴くようにはなってました。それで中学を卒業する時にジャマイカに行ったんです」。


●えっ? 中学卒業してジャマイカに行ったんですか?

OGA「親父が『ジャマイカ行こか』と卒業旅行みたいな感じで連れて行ってくれたんですよ。親父もジャマイカには行ったことがなくて、二人で初めて行ったんです。その時にキングストンで泊まっていたホテルの隣の部屋の人がたまたま日本からのサウンド・マンだったんですけど、その人がARROWS(当時のキングストンに在ったダブ・カッティング・スタジオ)にNINJAMANのダブ録りに行くと言うから一緒に連れて行ってもらって見学させてもらったんです。それですね、その日本からわざわざジャマイカに行って、自分でアーティストと交渉してダブを録って、それを日本に持ち帰って広めるサウンド・マンがめちゃくちゃ格好良く思えたんです」。


●中学卒業してARROWSに行ってNINJAMANのダブ録りを見学するって、スゴいと言うか、全く普通のコトではないですね(笑)。

OGA「それで日本に帰国して、もっとジャマイカやレゲエのことを知りたいと思っていたら、親父がMr.YENという人を紹介してくれたんです。Mr.YENはジャマイカのモンティゴ・ベイに15年間住んでいた日本人で、ちょうど帰国して近所に住んでいたので紹介してもらって、そのMr.YENからレゲエやジャマイカのことを教えてもらうようになって、Mr.YENの後輩のOGIDOOがJAH WORKSを立ち上げたので、そこに入ると言うか自分も通うようになったんです」。


●それは何年のことですか?

OGA「JAH WORKSが結成したのは2000年で、自分は2004年ぐらい、ちょうどDIWALI(リディム)やSEAN PAULとかが普通に周りでも流行っていた頃にボックス・ボーイ(サウンド・システムのスピーカー・ボックスを運ぶ係)を始めました。その頃の自分はシャイと言うか、そんなに人前に出て何かやるタイプでもなかったので、ずっと先輩達を見て学んでいる感じでした。先輩達の中にはMr.YENだけではなく、CHUCKY SMARTさんやROTTON RANKSさんみたいにジャマイカや海外を経験した人達もいたので、そうした先輩達からレゲエやジャマイカのことだけではなく、その歴史や文化とかも教えてもらったりしてました。あと、そうした海外を経験している先輩達からは最初から『海外での活動を視野に入れろ』とも言われていましたし、そう言われたからというわけではないですけど、それをずっと目標にもしてました」。



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ラスタ・マン ー。

●そうした中でラスタのことも学んだ?

OGA「そうです。ジャマイカの文化やレゲエのメッセージをもっと深く知りたいと思って、それで知っていったらラスタにたどり着いて、憧れもありましたけど、それを実践してみようと思ったんです、『実践してみたらどうなるんやろう?』って。そしたら自分の中でフィットするものが多かったので、そこから徐々にラスタへと傾倒していったんです」。


●何から実践したんですか?

OGA「食事です。ラスタの健康志向からですけど、『ホンマにそういう物を食べると変わるんかなぁ?』って。自分の親父はヒッピーで、ヒッピーとラスタには似た部分はあるんですけど、ヒッピーにはサイケデリックなカルチャーもあって、ヒッピーの人達の身体がボロボロになっているのも見ていて、そうしたラスタの食事、アイタル・フードを試してみることにしたんです」。


●自分でモルモットになって実験してみることにした?

OGA「そうです、モルモットになってみました(笑)。そしたら、実験成功と言うか、身体の調子が良くなるのがわかるんですよね。それで身体の調子が良くなると気持ちがボジティヴになっていく感覚もわかるようになっていって、それでもっとラスタのことを勉強していくようになったんですよね」。


●「黒人でもないのにラスタ」とか言われたことはありませんでした?

OGA「ない、と言うか、そう言ってくるとしてもそれはラスタではない人、ラスタを理解していない人達ですね。ジャマイカでもラスタ・マンは絶対そういうことを言わないですね。それが自分にとっては答です」。


サウンド活動を通じた社会貢献 ー。

●いつからJAH WORKの中心に?

OGA「15年ぐらい前からです。先輩達がそれぞれに自分達のことで忙しくなっていた時期で、先輩達に『お前がやれ』って言われてからです。ただ先輩達に『やれ』と言われたからではなくて、自分はその先輩達のJAH WORKSを受け継ぎたいと思ったんです。先輩達から色々と教えてもらったこともありましたけど、その先輩達がみんな凄かったです。ジャマイカに自分で行って経験してたりしてレゲエやジャマイカの歴史や文化にも詳しくて、先輩達のことをもっと広くに知られるべき人達だと思っていたんです。それが全然他には知られていない、伝わっていないことも悔しくて、それを自分が受け継いで伝えていけるようにしたいと思ったんです」。


●先輩達からのサウンドであるJAH WORKSを受け継ぎつつ、現在に自身のサウンドとして活動して行く上での目標はありますか?

OGA「サウンドを通じた社会貢献です」。


●社会貢献?

OGA「なんて言うか、サウンドをプレーしていくことで社会をもっと良くできたらとは思っています。サウンドを通じて人々をポジティヴな気持ちにさせることもそうですし、ポジティヴな人達が増えるようになることで社会も良くなると思ったりもしますし。あと、サウンドをプレーすることで得られたものを社会に還元していきたいとも思っています。まだ始めたばかりですけど、ジャマイカの子供達に使うために寄付させてもらったりしています。それは、ジャマイカへの恩返しの気持ちもありますが、最近のジャマイカの曲を聴いているとさっき言ったみたいにバランスが取れなくなっているような気もしていて・・、若いダンスホールのアーティスト達もその悪い方のBADに行き過ぎてしまっている、もうバランスが取れないぐらいに振り切ってしまっている感じもしていて、それがジャマイカのシーンもですけど、社会も悪くしてしまっている、暴力とかネガティヴを増やしているようにも思えるんです。で、その背景には教育の問題もあるんじゃないかと思うんです。学校や家庭だけではなく、地域全体の。以前はジャマイカの子達はそれぞれの地域で大人や周りの人達からも教育を受けていたと思うんです。ジャマイカは人と人の関係が近いですし、よく会話をしますから。それがコロナの影響もあったのかもしれないですけど、そうした人との交わりも減ってしまって、子供達も周りや大人達とも接しないで自分達の世界だけで成長している気がして、それもそのBADに行き過ぎる、バランスを壊してしまっている理由にも思えて、その子供達への教育をサポートできないかと始めたんです。それをジャマイカだけではなくて、日本ででもですけど、もっと広くにしていけないか、と考えています」。



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JAH WORKS SOUND SYSTEM ー。

●5月25日に東京・渋谷duoでJAH WORKS主催のイヴェントが開催されます。

OGA「これまでにいくつもイヴェントを自分達で主催していますし、野外イヴェント『SWEET RIVER ROCK』も開催してきましたけど、自分達の地元ではなく東京でやるのは初めてになります」。


●それを開催することにした理由を教えてください。

OGA「ずっと地元だけではなく日本の色々な場所でやらせてもらってきて、自分の存在だけではなく、自分がプレーで伝えるメッセージ、ボジティヴなレゲエのメッセージが徐々に伝わってきていることを実感しているのもあります。現場のプレーだけではなく、『オガラジ』とかSNSを通じてのプレーを通してでも、それを確認できたりもしていますし、昨年に『WELCOME TO JAM ROCK』での優勝したこともそのタイミングに思えました」。


●それを地元の関西ではなく東京で開催することにした理由を教えてください。

OGA「去年にMIGHTY CROWNの『FAR EAST REGGAE CRUISE』に出演させてもらったんですけど、それがジャマイカの『REGGAE SUMFEST』のサウンド・クラッシュと日程が被ってしまったんです。『FAR EAST REGGAE CRUISE』の方が先には決まっていましたけど、それが延期されて日程がズレたことによって、『REGGAE SUMFEST』とちょうど日程が被る感じになってしまったんですよ。『REGGAE SUMFEST』の方は直前になって正式にオファーされたんですけど、『どうしよう、どちらにも出たい』となって、SIMONさん(MASTA SIMON / MIGHTY CROWN)に相談に行ったんです。で、その時はSIMONさんがどちらにも出演できるように調整してくれることになったんですけど、その時にSIMONさんからは別にアドバイスも受けたんです。それは自分の活動のことに関してだったんですけど、『最初は自分達の地元からイヴェントを始めて、それを盛り上げられるようになったら違う街でもやっていかないといけない、そうやって自分達の活動する場を自分達で広げていかないと変わらない』って言われたんです。そのSIMONさんからのアドバイスも頭にあって、それが『今なんじゃないか』と思ったんです。それで今まで関西ではやってきたので、違う街でやるなら東京で、それなら渋谷で、それでduoに決めたんです」。


●今回はJAH WORKSのサウンド・システムも稼働させての開催です。

OGA「自分達のサウンド・システムを稼働させて一晩やるのはもしかしたら今までもやってきてないかもしれないです。でも、やはり自分達のサウンド・システムを稼働させると自分達が盛り上がるんですよね。自分以外にもJAH WORKSにはメンバーもいますし、メンバー以外にもボックス・ボーイの子達もいますけど、やっぱサウンド・システムを出すとなると全員が盛り上がりますし、全員の結束力も高まるんですよね。それは自分達にとっては大切なことですし、そうした機会を作って、自分が先輩達からそうしたように、今後にJAH WORKSを次の世代にも受け継いでいってもらうようにしていくのも自分の役割だと思ってます」。


●一晩を自分達で主催して開催するのは他とはやはり違いますか?

OGA「違いますね。気持ちの部分でもそうですけど、自分は今はありがたいことに毎週末どこかに呼んでもらってプレーさせてもらってますけど、自分がプレーする時間は限られていますし、その時々のイヴェントの内容や他の出演者とか、自分がプレーする時間帯とかによってもプレーできる曲とかも限られたりしますけど、勿論それはそれで毎回変わらずに全力でやってるんですけど、やはり最初から最後までをプレーするとなると普段にはプレーできない曲がプレーできたり、普段には見せれていない部分も見せられると思うんですよね。普段は自分一人の時も多いですけど、JAH WORKSとしてやるのも変わってくるとも思いますし。だから、初めての人達は勿論ですけど、今までに自分を見たことある、プレーしているのを聴いたことあるという人達にも是非来て欲しいですし、自分や自分達のプレーを自分達のサウンド・システムで体験して欲しいです。今までにやったことないことをやりますから」。


●サウンド・システム、その魅力を何と説明しますか?

OGA「まずは音ですよね、サウンド・システムのスピーカーから鳴る音の迫力。耳ではなくて身体で体感するあの音ですよね。それは普段はなかなか体感できないと思います。あと、ジャマイカでは、特に昔の曲はサウンド・システムでプレーすることを前提にスタジオでも音源がミックスさせていたりするので、サウンド・システムで聴くことでその本当の良さや魅力が聴けるとも思うんです。サウンド・システムはレゲエ特有の文化ですけど、それを実際に体感しに来て欲しいです」。


●サウンド・システムとしてのJAH WORKSの魅力は何ですか?

OGA「人を元気にさせる、そうですね、人をポジティヴにさせるサウンドだと思っています。ポジディヴなレゲエとメッセージを伝えるサウンドだと思っています」。


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JAH WORKS SOUND SYSTEM
出演 : JAH WORKS and the Warriors
開催日 : 2024年5月25日・土曜日・24時~
場所 : 東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE
チケット : ¥4,000- 発売開始中
https://eplus.jp/sf/detail/4055270001-P0030001


OGA / JAH WORKS
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