interview by NATTSUN fr. BIXIS
10月28日、日本のダンスホールシーンに新たなシンガーが誕生した。
弱冠23歳ながら、長く関東のBLACK MUSICシーンの第一線で活躍しているダンサー【Aby】が、1stシングル『ALL Night』をリリースしたのだ。
GOGOダンサーとして長く関東のクラブシーンを引っ張ってきた彼女は、昨年末、GOGOダンサーを卒業し、レゲエダンサーへ転身した。そして先月、晴れてシンガーとしてのデビューも果たした今最もHOTなダンスホールギャルと言える。
今回は、そんな止まることを知らない彼女の謎に包まれた素性を深掘りするべく、ダンサー仲間であり友人でもある私Nattsunがインタビューしてみた。
地元は横須賀。自由な両親の背中を見て育った子供時代
●横須賀といえば、ベース(米軍基地)だよね。
Aby:そうだね、私のパパもベースで働いてて、3歳から小3まで私もベース内で生活してたよ。
●3歳?出身は違ったの?
Aby:実は、亀有生まれの江戸っ子なの(笑)3歳まで亀有で育って、それから横須賀のベース内に移り住んだの。
●ベースの中ってアメリカなの?日本なの?
Aby:完全にアメリカ!学校も英語だし、売ってるものも、テレビも、生活も、アメリカンだよ。

Aby:ベースにいたのは小学校3年生までで、その後にどぶ板*の辺りに引っ越したの。
(*米軍基地から汐入駅にかけて続く商店街で、アメリカンな雰囲気の飲食店やクラブが連なる。)
●でた、どぶ板通り!横須賀カルチャーを象徴する場所だね。パパはベース外で生活できるの?
Aby:ううん。私のパパはネイビーを辞めることになって、アメリカに帰ることになったの。その関係で、ママと私と弟2人はベースを出てどぶ板のマンションに引っ越し。
●それから母子家庭で育ったんだね。
Aby:2年後にパパはまた横須賀に戻ってきたけど、両親は離婚。
中3まではママと弟たちと生活していたんだけど、私が高校に上がるタイミングでママが再婚して茨城に引っ越すことになったの。
私は地元の高校に通う予定でだったから、ママに「一人暮らしさせて!」ってお願いするんだけど、もちろん反対。
結局、私はママと弟2人と離れて横須賀にいるパパの元で生活することになったの。
●思春期にいきなりお父さんと2人の生活ってどうなの?
Aby:かなり仲悪かった(笑)パパはとにかく自由な人で、これは俺の金だし、ここは俺の家っていう人。急に思春期の娘が転がり込んできたことによって、パパもストレスだし、それを感じながらも生活しなきゃいけない私もストレス。
途中、上の弟が茨城から横須賀に戻ってきて、3人で住むようになるんだけど、それからは私とパパが喧嘩する時は、いつも弟が止めてくれてたな。
結局、私はこの生活に耐えられなくて、19で家を出ることになるんだけど…
●Abyと弟君が仲良い姿は時々Partyでも見かけるけど、そういう背景があっての仲の深さなんだね。
Aby:そうだね。弟には感謝してるし、めっちゃ大好き。
私は私。アイデンティティに悩んだ思春期
●MIXで苦労したことはある?
Aby:めちゃくちゃある!私はベースにいた頃からずっと日本の学校に通ってたんだけど、とにかく目立つから、妬みや陰口の標的だったよ。
小学校の頃から背が高くてカーリーヘア、服はベース内で買うスウェット、ちょっと派手なピンとかつけて学校に通ってたんだけど、当然かなり浮いてて、いじめや陰口の餌食だった。
●それでも日本の学校に馴染もうとしなかったんだ。
Aby:うん、しなかった。可愛いアイテムを身に付けていたかったから。(笑)
私、小さい頃の夢が「自分のアパレルブランドを立ち上げること」ってくらいお洒落が好きなの。
それを絶対叶えたくて、17歳の時に「Avendetta」てタトゥーを入れたんだよね。「Vendetta」って「復讐」という意味があるんだけど、Aby×vendettaでAvendetta 。

Abyが手掛けるアパレルブランド「AVENDETTA」
●復讐…… この言葉にはどんな想いがあるの?
Aby:自分の好きなことをして、自分に自信をもって、強く生きるっていうことが「Avendetta」=復讐。
学校には「良いものは良い。自分の好きな事すれば良いじゃん!」というスタンスの私を良く思わない人がいて、面倒くさかったし、私もその人たちが嫌いだった。
今となっては「私のこと気にしてくれて、どうもありがとう♪」って思えるけど、その時は純粋に悲しかったし、苦しかったの。
●「Avendetta」ってAbyの人生そのものだね。
Aby:そうだね。
タトゥを入れるのとほぼ同時期に、GOGOダンサーとして横浜のクラブで踊り始めたんだけど、いつの間にか自分の居場所になってたの。
クラブにいるお客さんたちの自由に楽しむ姿がとにかく好きで、そこにはバッドマインドなんてなかったし、学校にいる時よりもたくさんのことを吸収した。
こうやって、自分の好きな環境があって、そこに身を置けることも「Avendetta」。
●逆にMIXで良かったことは?
Aby:日本で生活してて、良かったことはあんまりないかも。
カーリーいいねって褒められるくらい(笑)

●無いってのがまたリアル(笑)。私もハーフだけど、日本で生きていて、なんとなく根本にある考え方が周りとは違うかも?と違和感を感じることがあって……こんな経験ない?
Aby:あるある!
私って、日本人でも黒人でもなくて、日本人と黒人が混ざった人種なの。
日本にいて、日本人ですって名乗っても「えっ?」って言われるし、アメリカで「アメリカ人です」って名乗っても、「いや、ジャパニーズでしょ」って言われるのね。どっちでもないけどどっちでもあるの。
●「私は私」って思うことでしか表現できないというか、難しいところだね……。
Aby:でも、カテゴライズされない分、自分の都合の良いように、場面に合わせて自分のマインドを持っていけるというか…
どっちの要素も持ち合わせているから、柔軟に対応できるとこは良かったことかもしれない。
私のダンスのグルーヴだったり、洋服のセンスだったりは黒人寄りだけど、会話の中ですぐ「ごめん」って言うところとか、妙に礼儀を気にするところは日本人(笑)
●たしかに、すぐごめんって言うね(笑)愚問かもしれないけど、自分のマインドは「日本人」それとも「アメリカ人」?
Aby:マインドとしてはアメリカ人なのかな~。
理由は、自分も自由だし、周りが自由であることも受け入れるから。
日本人として日本で生活していると、見た目の違いから、怖がられることも多いの。常にニコニコしてるし、自然と人に優しくしなきゃだとか、譲ったりしなきゃって、無意識のうちにかなり気を使って生活してる。
「日本で生活してるのに、なんでそんなことしなきゃいけないの?」って思うから、日本人じゃないんだろうな。
心の底からGOGOが私の居場所だった
●17歳でGOGOを初めたんだよね。ダンサーになったきっかけは?
Aby:16の時に、ポールダンスに憧れて習いに行ったことがあったんだけど、その時の先生に「今度パーティーがあるから一緒に踊らない?」と誘われたのがGOGOの始まり。でもこの時はただの素人(笑)
17の時に当時付き合ってた彼とHIPHOPのクラブに連れて行ってもらった時、とある箱のイベントオーガナイザーに、「GOGOやらない?」って誘われてレギュラーになったのが本格的なGOGOダンサー人生のスタートかな!
先輩とか友達に誘われたんじゃなくて、オーガナイザー直々に仕事として話がきたという点で、スタート。

●そのオーガナイザー、まじで原石見つけたね。その数年後には日本全国を回るGOGOダンサーになってるわけだし。
Aby:ありがたいよね。でも、GOGOとして踊り始めた頃に最初に思ったのは、「辞めたい!」だった(笑)
●それはまたなぜ?
Aby:もともと音楽が好きなお客さんとして遊んでいて、自由に踊るのが楽しくてクラブが好きだったのに、「仕事」になった途端、色んなことを要求されることが本当に嫌だったの。
●あ〜お酒の売り上げだったり、踊る時間の指定だったり?
Aby:まさに。でも続けていると、目標が出来て、仲間が出来て、その目標に向かって、大好きな仲間と踊れることを最高に楽しんでいる自分がいた。そして、それを認めてくれる世界があることが幸せで、夢中になって続けていたら、気づいたら5年経ってた!
●居場所であって、輝ける場所だったんだね。仲間でいうと、私がPartyのフライヤーでAbyを見かける時は、AnnとかKIKIとセットってイメージだったな。
Aby:そうだね、3人とも別々に活動していたんだけど、歳が近くて、好きな事も生きてきた境遇も似てる、自然と集まった最高の仲間。
私は友達伝いにこの世界に入ったわけではなかったから、知らない関係者だらけの中で同世代に出会えたことは素直に嬉しかった。
ちなみに、仲良すぎて、3人とも同じタトゥ入ってる。
転機はHood横須賀で…
●3人でクルーを組もうみたいな話は無かったの?
Aby:あったよ!私が19の時に、3人でチームを組もうってなって、クルーの名前まで決めてたの。
でも、それとほぼ同時期に、Embassy*でMASARANXXさん率いるHenny Gang主宰のpartyに遊びに行く機会があって、そこでの光景が衝撃的だったの。「うわ、みんな本気で遊んでて、超楽しんでて、マジ最高!好き!」って、心を奪われた。
(*Soul Embassy:どぶ板通りの、Dancehall Paetyが行われるCLUB) で、後日またEmbassyのPartyに遊びに行った時に、Bugjuiceさんに「イケてるね!今度ダンス動画でも撮ろうよ!」って言われたのがきっかけで、レゲエダンスに触れたんだよね。
●その動画、YouTubeにあったよね?(笑)
Aby:もうないかも(笑)それからHenny Gangのpartyにダンサーとして呼ばれるようになったんだよね。
●GOGOでもレゲエでもなく、ダンサーAbyとして呼ばれていたよね。
Aby:そうだね。レゲエのダンスは殆ど知らなかったのに、とにかく居心地が良かったの。そして、「GOGOチーム組むのやめよう!」って決めたの。2人のことは大好きだし、GOGOダンサーとしてもリスペクトしてるけど、私はここに居続ける人じゃ無いなって思った。
●レゲエにクラってるね〜。
Aby:私には黒人の血が流れてて、英語も分かるから、歌詞を理解してプライドを持ってGOGOとして踊ってた。でも、GOGOダンサーの中にはそうじゃない子が多くて、一括りにされることに違和感を持っていたの。
対照的に、レゲエの現場にいる人って、お客さんも含めて歌詞やカルチャーをちゃんと分かっていたり、勉強してたり、リアルなんだよね。「もっと知りたい!」ってなって、どハマりした!
●その気持ちだけで飛び込んでくるあたりがAbyらしいわ。GOGOでは既にプロップスがあったのにも関わらず、卒業を決断する勇気もすごい。
Aby:むしろ「私、ここで止まってて良いの?」って思ったの。めっちゃ努力して入った世界じゃないのに、この年である程度プロップスができて、お金がもらえるようになってしまったから、そろそろ次のステップに行くべきなんだなって思った。
●そんな思いを抱きながら、徐々にレゲエのリンクを作っていったんだね。そして去年、完全にGOGOを卒業して、レゲエダンサーに転身したと…
Aby:そうだね。ちょうどGOGOを辞める頃、レゲエの現場に足を運んでいた時に、ふと酔っ払いに「もっと自由に楽しめよ〜!羽ばたけよ!」って言われたの(笑)
酔っぱらいの何気ないその言葉が妙に刺さって、とりあえず周りの意見や今まで抱いてきた葛藤を全てを捨てたら、レゲエの現場の居心地が最高に良くて、気付いたらレゲエダンサーになってた!
全国にその名を轟かせたワイニー

●話は変わって、Abyといえば「お尻!」だと思うんだけど…ゼンダニワイニーチャレンジ*の反響凄かったよね!(*ZENDAMAN主催の、オンラインワイニーコンテスト)
Aby:ありがとうございます!(笑)
●間違いなく1番お尻で踊ってた。どうしたらあんなに動かせるようになるの?
Aby:ワイニーとtwerkで言うと、元々全くできないわけではなかったかな。
小学生からダンスを習っていて、体の動かし方はわりと知ってた。そして恵まれたことに、揺れるお尻はあったから、感覚を掴むのは早かったかも。ただ、スプリット(180°開脚)と、ケツピク(お尻の筋肉を左右交互にピクピク動かす動き)は、全然できなくて、ひたすら練習した。
●ワイニーのコツが知りたいです!
Aby:基本的な動かし方は色んな先生が教えているから端折るけど、自分のお尻が振りやすい足の開き方(幅)とか、どの姿勢が回しやすいかというのは人それぞれ絶対に違うから、研究あるのみかな。体つきによってできる動きとできない動きがあると思うの。
1番大事なのは、「この動きが出来るようになるには」を考えた時に、今どの筋肉が足りないかとか、体のここが硬いんだとか、しっかり現状の自分を知ること。
●確かに、骨格や肉付きによって動きの魅せ方は違うね。ワイニーで言うと、Abyは結構足開いて上半身をかなり倒すワイニーがめっちゃかっこいいなと思って見ているんだけど、私は足を肩幅くらいにして、上半身もあんまり倒さないワイニーが映える。
Aby:そうそう、そういうこと。
●普段どんな練習をしてるの?
Aby:毎日のルーティーンとして決めてやっていることは特に決めていないけど、常に「ながら」で出来ることはしてるかな。
歯磨きの時は爪先立ちで立つし、お風呂の鏡で表情の練習をする。鏡や建物のガラスに自分が映れば、音があろうがなかろうがワイニーやアイソレ(体の各部分を独立させて別々に動かすトレーニング)してる。
●ダンスにおいて大事にしていることは?
Aby:大事にしてることは、クオリティを高めることと、オリジナリティを入れること。
誰でも出来る簡単なダンス1つも丁寧に綺麗に磨いて、そこに+α自分らしさを加えると、個性になるの。これは昔ダンサーの先輩に教わったことなんだけど、カッコ良さは全てソコに出ると思う。これを突き詰めていくと、立ち方1つだって魅せ方の引き出しが増えてくるから永遠に研究し続けられるよ!
DANCEHALL GYAL 共感の嵐
iTunes Store:https://music.apple.com/jp/album/all-night-single/1535445438
●あらためて、1st シングル『All Night』のリリース、おめでとう!
Aby:ありがとう!
●友人として思ったのは、本当にAbyの恋愛観そのまんまだということ(笑)
Aby:正直者だから、リアルなことしか言えないの(笑)
相手がいるから恋愛できるのは分かってるし、相手がどう思ってるかはもちろん気になるけど、それに振り回されてる自分にムカついてくるこの気持ちを歌にしたいなと思って書きました。
●Bad gyalの繊細な部分を言葉にしてる感じがする。
Aby:確かに私はあなたのこと気になってるし、あなたは私を遊んでるのかもしれないけど、私もその状況を楽しんでるの。あなたから来てくれなかったら他行っちゃうんだからね!って思って歌ってる。

進化する上で大事にしていること
●最後に。今後は、ダンサーに止まらず、シンガーとしても活動していくと思うんだけど、目標はある?
Aby:今はとにかく、周りの目に恐れることなく、歌いたいから歌う、踊りたいから踊る。その時好きなことをする。それだけかな。今後やりたいことは、今後決める。
好きなことをし続けるために意識してるのは、「感じたままに生きよう」とか「ありのままの自分を受け入れよう」ということ。周りの期待に応えるとか、人の心を動かそうとか、共感を得ようとして作り込もうとしちゃうと、自分のスタイルからブレるの。
●昔からずーっと言ってる言葉だね。
Aby:何言われたって、妬まれたって、今までもそうしてきたからね。
これからも私はありのままの自分で、人に媚びることなく、STAY ROYALに生きていくの。
【RELEASE INFORMATION】
Aby 1st single「All Night」そして11月18日には、Star Bwoy Worksから自身2作目となる「Tonight」をリリース。以下詳細
【Aby PROFILE】

1997年10月18日生。日本人の母とBlack Americanの父をもつ。17歳でGOGOダンサーとしてのキャリアをスタートさせ、関東を中心に全国のHIPHOPのクラブを巡っていた彼女だが、2019年12月にGOGOダンサーを引退。
2020年より本格的にレゲエダンサーに転身し、Dancehall,Afrobeats,SOCAを中心としたショーを披露するほか、関東を中心としたクラブシーンでフロアを沸かし続けている。お尻を使ったダンス「ワイニー」をはじめ、セクシーでパワフルなフィメールスタイルのダンスで観る人を魅了し続ける彼女だが、ダンスにとどまらず、2020年10月28日、STAR BOWY WORKSから自身初となる1stシングル『All Night』をリリースし、シンガーとしてのデビューを果たした。日本のBLACK MUSICシーンに長く精通した彼女ならではの、リアルな人生観から歌われる恋愛ソングは、女の子から多くの共感を得ている。
Instagram:@aby_moniq