Text by Seira Yonamine, MASARANXX


 「レゲエ」という音楽ジャンルの中で、ポジティブなエネルギーを持った女性アーティスト達が現れ、彼女達による新たなムーヴメントが起きようとしている。


2020年に、Koffeeがグラミー賞において最優秀レゲエ・アルバムを女性として初受賞という快挙を遂げ、その追い風に乗るように、Lila Ikè, Sevana, Jaz Elise, Naomi Cowanなどの新しい女性アーティストの活躍がジャマイカでも目立ってきている。一体、それは何故なのか?


今、世界が大転換期を迎え、先行きの見えない社会情勢に恐怖や不安を抱くなか、世の中に必要なのは「癒し」ではないだろか。人類が女性から生まれたように、人類の母である女性は、いわば「人類共通の原点」。だからこそ、女性がこの世界を癒す力を持っているのではないかと筆者は考える。


音楽で政治を変えたボブ・マーリーのように、レゲエ(音楽)が社会に与えた影響が、今の時代にも必要とされていて、その答えは、彼女たちのメッセージに込められているのではないだろうか。


ライターSEIRAと、セレクターMASARANXXの夫婦による日常会話をコラム化。


第一弾目は、レゲエザイオン特集記事『女性の時代』企画として、レゲエ・シーンに新たに誕生した「女性主観のムーヴメント」を考察。


| “Gratitude is a must(大事なのは感謝)” - Koffee
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 17年、レゲエ・シーンに彗星のごとく現れたジャマイカ・スパニッシュタウン出身のKoffee(コフィ)はデビューからわずか3年という驚異的なスピードでその名を世界に轟かし、未来を変える若い才能と影響力を持つアーティストとして評される存在となった。


彼女の音楽性はオーセンティックなレゲエのスタイルをベースにダンスホールのリディムも器用に乗りこなすマルチなスタイルだ。また、彼女の曲が持つポジティブなメッセージ性は多方面から評価されている。


シングル「Burning」でデビューし、ベテランのラスタ・アーティスト、ココ・ティーの計らいでRebel Salute(ジャマイカ最大のラスタアーティスト中心のレゲエ・コンサート)でパフォーマンスを経験。当時、若干17歳とは思えない堂々としたパフォーマンスが記憶に新しい。


同イベントでも披露し話題となった楽曲「Raggamuffin」を18年にリリース。デビューわずかにして好調な活躍ぶりが続く中、シングル「Toast」が世界的にスマッシュヒットし、数々の有名ラジオやクラブでプレイされ、ジャンルの枠を超え世界的に認知される。


そして、彼女の快進撃はとどまることなく、19年にリリースした初EP『Rapture』 が20年グラミー賞にて最優秀レゲエ・アルバムを受賞。史上最年少、初女性アーティストとしての受賞という偉業を達成した。


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|「コフィにとっての成功は、お金やフォロワーや賞を得るというよりも、もっとサスティナブル(持続可能)で現実的なもの」
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 フランスを本国とする女性ファッション誌Elleで「十人の未来を変える先駆者的女性」に選ばれたコフィ。さらには大手ファストファッションブランドH&Mがホリデーキャンペーンの主役として彼女を起用した。



H&Mは、地球の環境問題や気候変動により、これまでのコスト重視のビジネススタイルからSDGs(国連サミットで採択された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称)へ大転換を表明し話題となった。世界的に、地球に優しいアースフレンドリーな暮らしが促進されるなかで、H&M公式サイトで「コフィにとっての成功は、お金やフォロワーや賞を得るというよりも、もっとサスティナブル(持続可能)で現実的なものです」と賞賛された。


それは、2020年に世界(地球)が大転換期を迎えたタイミングで、コフィがレゲエ史において新時代を切り開いたことは偶然ではなく、今の時代背景に合った必然的なものであり、レゲエの本質である「ポジティブなバイブレーション」を広める使命を担っているのではないかと筆者は考える。


そして、今世界が共通して取り組んでいるサスティナブルの「自然環境に配慮し感謝する」という価値観と、コフィが持つピュアなメッセージ「 “Gratitude is a must(感謝が大事)”」が、これからの時代の「キーワード」になるのではないのだろうか。

 

Blessings all pon mi life and
Me thank God for di journey, di earnings a jus fi di plus (yeah)
Gratitude is a must, yeah

自分の人生は神のご加護を受けているの
この旅(人生)を与えてくれた神に感謝
お金を得るのは二の次
感謝が大事なの


コフィはH&M公式サイトで自らの音楽観を以下のように語っている。

"Music is like conversation. When I feel sad, I turn to my favourite artists and listen to what they have to say. That's why it's important to have the right perspective and be ethical and upright when creating music. Because people are listening."

「音楽は会話みたいなものだわ。悲しいときは好きなアーティストに浸って彼らの歌っていることを聴くの。だからこそ音楽を作るときは正しい視点を持ち、倫理的かつ正直でいることが大事なの。みんなアーティストが歌っていることをちゃんと聞いてるからね」


現在、世界がコロナ禍で沢山の国がロックダウンになっているなかリリースしたシングル「Lockdown」でコフィは以下のように歌っている。

Where will we go?
When di quarantine ting done and everybody touch road
Mummy, me go NASCAR
Pull up in a fast car
Ah nuh false start

どこへ出かけようかしら?
自主隔離期間が終わってみんなが外に出始めたら
マミー、私はNASACARに行く
早い車を走らせて
フライングはしないわ

また、ロックダウン中の過ごし方についてもこう語っている。

"I wrote it as a way to gather my thoughts around how I felt about being in lockdown. And for me, the quarantine has actually been rather fruitful. Staying in my comfort zone, instead of being on tour, has allowed me to spend time with my family and at the same time, stay productive and really focus on my music."

「この曲はロックダウンについて自分が感じていることを書いたの。自分にとって自主隔離期間はむしろ有意義な時間になっている。自分が心地いい場所にいて、ツアーに行くかわりに家族と過ごすことができるわ。音楽にフォーカスもできるしね」


どんな状況下でも下を向くことなく、前向きに生きていくことが人生において大事なことであるというメッセージを読みとることができる。


そんなコフィの最大の魅力は、音楽を通してレゲエ・ミュージックが持つポジティブなメッセージを一貫して発信していることである。そのことが人々の共感を呼び、彼女の活躍を後押ししたのではないだろうか。


20世紀にボブ・マーリーがレゲエを広めたように、21世紀は彼女がアンバサダーとして、この音楽の素晴らしさを響かし、今後の世界にどう影響を与えてくれるのかが非常に楽しみである。


| 新時代の女性アーティスト、彼女たちは一体どこからやってきた?
~Where I’m coming from ~
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 19年末にProtoje(プロトジェ)のレーベル In.Digg.Nationから"Rock & Groove Riddim"がでたことで、新時代の女性アーティストたちがフォーカスされた。Lila Ikè(リラ・アイケ), Sevana(シヴァナ), Jaz Elise(ジャズ・エリス), Naomi Cowan(ナオミ・カウアン)だ。


彼女たちはソロ名義で活動しながら、お互いのMVに出演しあったり、ライブを行なったり、新たなムーヴメントを昇華させるために一丸となっている。


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左から、Sevana, Lila Ikè, Naomi Cowan, Jaz Elise


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Lila Ikèのデビューアルバム『The ExPerience』のリード曲「I Spy」のMVに4人で共演。


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19年、アラブ首長国連邦(UAE)の中東諸国で開始された新しいPUMAのキャンペーンモデルにLila Ikè, Sevanaが起用された。


昨年、BBC Radio 1Xtraが「国際女性デー」に向けたフリースタイルライブ企画で4人を起用し、ProtojeのスタジオHabitat Studioでパフォーマンスを行なっている映像は筆者のお気に入りだ。


可愛くて健康的な彼女達が放つポジティブなバイブレーションは、まるでジャマイカに滞在しているような、そんな気持ちにさせてくれる。


この4人の中から、BBC 1xtraの注目アーティストに選出されるなど、実力とカリスマ性を兼ね備えたLila Ikèについて特筆したい。


その前に、筆者が印象的だった映像を紹介したい。

17年に1Xtra in Jamaicaで行われた、Shenseea, Blvk H3ro, Lila Ikè and Leno Banton Freshmanのサイファーだ。


水色のシャツを着たリラからマイクが始まる。マイクを持つ彼女の反対の手には、今にも吸いたそうに木製のパイプを持っている。軽く自己紹介をしてからマイクをパスすると、すかさず持っていたパイプに火を着け、勢いよく吸いだし、小刻みに煙をふかしながら音に乗っている。何かを気にすることもなく、マイペースにひたすら吸い続ける彼女の姿が、どこかミステリアスで神秘的。そんな彼女に見惚れる間もなく、リラのバイブスが良い感じになってきたころのベストなタイミングでマイクが回ってきた。新しいリディムがかかりだし、彼女は言った「Love Sinsemilla!(大麻を愛してる!)」。そこからそのままガンジャ・チューンを2分強歌いだしたのだ……。


筆者はこの映像を見て、リラの際立ったアーティストとしてのポテンシャルと色気に、さらに大ファンになった。


| Lila Ikè 「Ikè」という名前の由来は「神の力」
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「Ikè」という名前はナイジェリアの名前「Ikéchukwu(神の力)」から来ている。


17年にプロトジェのレーベルと契約。19年にはヨーロッパ・ツアーを行い、Rotoman Sunsplash Reggae Jamでパフォーマンスを行う。Protoje のUSツアーにも同行するなど精力的に活動し、20年にリリースしたEP『The ExPerience』は高く評価された。


94年、ジャマイカ・クリスティアーナ出身のリラは、11年マンチェスター高校を卒業、Northern Caribbean大学に在籍後、音楽の道を志す。


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左:Protoje  右:Lila Ikè


|「これはデザインされたことだと気づいたの」
~コンシャスな表現で愛を追求した新時代へのメッセージ~


When I think of Where I'm Coming From
Looking back at where the journey began
I really haffi say that I'm strong,I'm strong
All praises to the most high One

自分の生きてきた軌跡を振り返り
旅が始まったところを見返すと
自分は強いと言える
神への称賛を

Make mi tell ya 'bout da Life of a Queen inna this ya concrete jungle
Firm in a regime so ya nah gon' see mi stumble
Mama say nuh come a town an' mix wit dutty bungle See
deh now mi jus a rise and so mi rise a so mi humble
Outta Christiana yes mi lef go look for mine
Never sell mi soul, mi settle down an' take mi time
Do it for the love so naturally the light a shine Now mi realise it's by design

コンクリートジャングルのクイーンのライフについて語らせて


変わらない政治体制の中でもしっかり立っている。

私がぐらついてるとこを見ることなんてない
わ

ママは街に行かないでと言ったわ。そして心の汚い人と関わるなとも


私は今上がってるとこなの、そして謙虚にきたわ

クリスティアーナ(彼女の故郷)を出て自分の道を探す
の

魂は売らないわ。落ち着いて自分のペースで


愛のために生きるの。そしたら自然と光が差す
わ。

これはデザインされたことだと気づいたの。

 

 この曲の歌詞は、誰にでも共通する「自分のルーツ」に語りかけた力強いメッセージ。
コロナ禍で、これまでの体制や常識が一掃され、誰もが「社会とは?自分とは?生きるとは?」を問われる状況に立たされている時だからこそ、彼女がいうように「自分がどこからきたのか?」というところを突き詰めて考えることで、暗闇の迷宮に光がさすのではないだろうか。


現在、目に見えないものが世界的に猛威を振るい、これまで通りの営みすらも不自由する状況であると同時に「目に見えない存在」というものに人々の関心が高まっている。愛すらも目に見えない存在だが、男女の愛の産物がわたし達であるならば、そのことについて考えることこそが、全人類共通の「原点回帰」ではないのだろうか。

リラが発信する愛に、そんな壮大な思いを巡らせてみた。知性と強いハートを持ったリラが新時代へ向けたコンシャスなメッセージは今聴くべき作品に仕上がっている。


| 女性主観のレゲエ・ムーヴメントが世界に羽ばたく

これは筆者の勝手な見解だが、21世紀のボブ・マーリーをコフィとするならば、リラ・アイケはデニス・ブラウン。
レゲエ史においての2大レジェンドを彷彿とさせるような人物はすでに誕生していると言っても過言ではないだろう。Major Lazerのワルシー・ファイアがコフィをココ・ティーに紹介し、プロトジェがリラをフックアップしたように、すでにバトンが彼女達へ託されているのだ。


音楽で政治を変えてしまうような偉大なアーティストが誕生したジャマイカで生まれる音楽に、女性の視点やスピリットが加わり、彼女達がレゲエを広め、世界を変えていくのではないだろうかと期待に胸を膨らませている。

人類が女性から生まれたように、女性とは創造の女神。



女神達による混乱のない「真実の愛」が世界を癒し、時代を導くためのインスピレーションが表現された高いメッセージを感じる。


新たに、女性主観のレゲエ・ムーヴメントが誕生したことで、戦いを繰り返しバラバラになった世界が、女性たちの愛でひとつに繋がる日はすぐそこに近づいてきているのかもしれない。 One Love.


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