Text by: takane

 MIONというアーティストを知っているだろうか。仙台在住の彼は、アーティストとトラックメイカーの二刀流アーティストとしても大きな存在感を見せている。レゲエ、ヒップホップの垣根を越え、様々なアーティストと共作するMION。今回はそんな彼の音楽的ルーツ、そして新しくリリースしたアルバム「blind」についてとくと聞かせていただいた。



●まずは、セカンドアルバムのリリースおめでとうございます。

MION:ありがとうございます。


●レゲエ界、ヒップホップ界の気鋭のアーティストということで、音楽を始めたきっかけからお伺いしてもいいですか?

MION:中学校の頃は友達が多いタイプじゃなく、そのときに歌詞を書き始めたのが始まりですね。


●MIONさんの地元は東北の仙台ですが、どういう場所ですか?

MION:都会でもなく田舎でもなくちょっと中途半端な場所かなと思います。


●なるほどなるほど。中学生のときからもう既にブラックミュージックに興味はあったんですか?

MION:そうですね。中学校の先輩がCDを貸してくれて、中学校2年生頃にブラックミュージックを覚えました。歌詞に関しても、詩はその時すでにもう書いてたんで、それが歌詞になったって感じですね。


●MIONさんは、ヒップホップとレゲエの要素の二つを兼ね備えていますよね。当時はどちらをよく聞いていたんですか?

MION:当時はもうガチガチヒップホップですね。最初はラップをしていました。



S__93020177.jpg

●現在の楽曲にはレゲエの影響も感じますが、ラップからレゲエに移っていったのはどういうタイミングだったんですか?

MION:レゲエアーティストのRudebwoy Faceを見て、レゲエをやってみたいと思って、そこでぱっと変わりましたね。


●確かに、MIONさんのメロディアスなフローには、Rudebwoy Faceさんの影響も感じますよね。Rudebwoyさんかっこいいですし、私も憧れです。ヒップホップとレゲエの両方に影響されているとお話されていますが、ご自身ではそのことについてどういうふうにお考えですか?

MION:昔から「レゲエなの?ヒップホップなの?」って言われることは多々あったんですけど、ジャンルっていうのは曲を売り出すための棚というか、仕分けしてみんなが聞きやすくするためのものだと思っています。それにヒップホップとレゲエっていうのはかなり近いし、共通する部分がすごくいっぱいあるから、あまりジャンルとしては線は引きたくないかなって思いますね。それが、自分のオリジナルのスタイルに繋がっているとも思います。


●なるほどなるほど。確かに共通する部分も多いですし、ジャンル分けの必要はないかもしれませんね。では、アルバムの方のお話に移らせていただきます。MIONさんはビートメイカーとしての一面もお持ちですが、アルバム全体としてどれくらいがご自身で作られたビートなんですか?

MION:スキットも入れて9曲ですね。具体的に言うと「INTRO~DESIRE~」、「Hungry」、「Warm」、「Skit~Past&Future~」、「blind」、「FAKE LOVE REMIX」、「Skit~Outside~」、「Private」、「Skit~Station~」です。


●ビート作りはいつから始められたんですか?

MION:21歳の時に、半年間カナダに英語の勉強で留学していたのですが、そこから帰ってきた時期くらいからだと思います。


●なるほど。留学の経験もおありなんですね。アルバムにはかなりスキットが入っていますが、どういうところに挿入するものなんですか?

MION:上音が気に入ってたりとか、曲順に並べてみてここにはこういうのあった方がいいなと思ったりとか、なんとなく、「ここに入った方がいいんだろうな。」っていう感覚で入れています。


●1曲目の「DESIRE」というスキットですが、欲望とかそういう意味ですよね。

MION:そうですね、次の曲が「HUNGRY」じゃないですか。「何かを手に入れるために必要なもの」とかそういうイメージなんです。またこのスキットで使っているのは、実はスティーブジョブスのスピーチなんですよ。「STAY HUNGRY、STAY FOOLISH」っていうタイトルのスピーチです。


●なるほど。ジョブスのスピーチにインスパイアされたスキットなんですね。次2曲目「Hungry」。これはどういう曲なんですか?

MION:自分は33歳なんですけど、人に「まだやってるの?」とかそういうことを言われることがあったんです。ただ自分としては、Hungryであれば、何を何歳になってもやり続けてもいいと思うし、逆にHungryじゃないんだったらやってる意味がないかなって思ったので、そういう気持ちを曲にしました。



●そこから『Sunrize』という曲ですが、フィーチャリングはVigormanさんですよね。彼とはどういうお知り合いなんですか?

MION:Vigorはパーティー友達だったり飲み仲間っていう感じですね。普段から関西に行ったときは一緒にパーティーしてくれるし、逆に東北に彼が来たら。俺が行って一緒にパーティするという関係です。


●「Sunrize」っていうのは朝日のことだと思うんですけど、どういうテーマで楽曲制作されたんですか。

MION:これは「日が昇るように始まる物語」というリリックが入ってるんです。「このアルバムで俺の物語がまた新たに始まる。」、「太陽みたいに上り出して、その日のストーリーが始まる」というイメージですね。新年だし初日の出みたいなノリです。



●新年にふさわしい縁起のいい曲ですね。4曲目の「Warm」はどういう曲ですか?

MION:「自分、なりたい自分になれてるのかな?」と思い返したときに、なりたい自分になれてなかったり、自分に対する不満があったりすることがあるんです。そういうときに書いた曲ですね。


●なるほど。楽曲を聞いていたりとかSNSで見てたりしたイメージではMIONさんは、すごく繊細な方だというふうにお見受けします。ご自分でご自身の性格をどういうふうに考えていらっしゃいますか?

MION:自分には甘いなって思います。「もっとできる」、「もっとやれるところあるな」って自分で思うんで。


●「なりたい自分になれているか」というのは、MIONさんが日々問いかけていることでもあるんですね。

MION:もちろん自分に言えることだけど、そういうことにすらも、気づいてない人たちもかなりいると思うから、そういう人たちにも俺は気づいてもらいたいっすね。


●そこからまたSkitに入るんですけども、「skit〜Past&Future〜」というものですね。これは何の音声なんですか?

MION:これはYouTubeにある植松さんっていう人のスピーチですね。宇宙開発をしている人です。


●なるほど。植松さんのどういうところにシンパシーを感じられたんですか?

MION:彼は小学校の頃から、飛行機や宇宙が大好きだったらしんです。それで宇宙開発をしたいって言ってたけど、大人たちが、「それはすごく頭のいい人じゃないとできない」とか「金がかかるから、普通の人はできないんだよ」って、その人に植え付けてくるわけですね。でもチャレンジしてやったことのある人は「やったらできるよ。」って絶対言うだろうし、やったこともない人たちは「やってもできないよ。」って言うだろうし、そういうふうに考えたら「自分のやりたいことを貫き通す」のが勝ちだなって思いましたね。そういうところにシンパシーを感じました。



●宇宙開発の人のインタビューを、スキットに引用するっていうのはすごくおしゃれですよね。では続いて、6曲目の「blind」はどういう曲ですか?

MION:「Warm」でも言ってることなんですけど、後悔したくないし、後悔しないためにはそれにつぎ込むしかないなと常日頃思っています。植松さんと同じ経験を俺もしたことがあるし、そのことを歌っています。さらに2バース目は、若くして自殺しちゃった仲間のことを歌っているんですが、自分もその経験から「やっぱり時間ってないんだな」ということを自覚したんです。「死って誰も経験したことがないから自覚が薄いんだけど、結構近いものなんだな。」って。でもそこから「やりたいことを今やるしかない。」と気づけましたね。


●「blind」という曲名で、それに合わせたサングラスも発売されていましたが、この曲にかけてサングラスを発売された意図はどのようなものだったんですか?

MION:この楽曲はアルバムタイトルにもなっているんですけど、そもそも「blind」っていうのは盲目っていう意味なんですよ。盲目っていうのは「目に見えない力」だと俺は思ってて、例えば、「願い」、「葛藤」、「達成」といったものです。これらって全部見えないもので、その後に「結果」っていうものがくるんです。これは目に見えたり手に取れたりするもので、人によっては何かの富だったり、幸せな生活であったりだと思います。だから「思うは招く」じゃないけど、結果を手に入れるためには強く願うことが大切だなと。「願い」、「葛藤」、「達成」という目に見えないものの後についてくる「結果」を手に入れるために、目に見えない動きをしている。それを曲で伝えたいっていうコンセプトなんです。


●なるほど。その考えはどこからインスパイアされたものなんですか?

MION:俺はいろんな本を読むんで、本の中の人たちですね。同じ本を何回も何回も読むんですけど、結構読書好きではあると思います。


●ちなみに最近読んだ本で、いいなって思った本とかありますか?

MION:ナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」とか、あと有名どころで言えば、「嫌われる勇気」とかですかね。もうちょっとスピリチュアルになると「ザ・シークレット」とか「引き寄せの法則」とかもいいですね。


S__93020172.jpg
●マインドに関する本をよく読まれる感じなんですね。次7曲目の「FAKE LOVE」ですけども、こちらはREMIXバージョンなんですね。恋愛だけに限らず、偽物はいらないというような内容ですが、

MION:そうですね。偽物的な対応をされた時に、曲のように感じてその事実を歌にしました。この曲は「ジーズ」という自分のバックDJがプロデュースしたんですけど、「いいものを作ろう」という気持ちが二人で一致していたので、リリックもすごくまとまったなって思っています。だからアルバムにも入れたいと思ったんですけど、そのまま入れるのは面白くないし、そこをYoung Beatsでリミックスとして出すことにしました。


●そこから8曲目のスキットにつながりますよね。外の音が入っていますが、どういう意図があるのでしょうか?

MION:次の9曲目の「private」がクラブの中から始まっているっていうのにかかっています。9曲目に入る前に、クラブの外で溜まってたり、クラブに入る前の雰囲気だったり、そういった雰囲気を出したかったんです。


●なるほどなるほど。次の「Private」は、ギャルチューンですよね。どういう経緯でギャルチューンになったのですか?

MION:CORNHEADさんが仙台に来た時に、「PRIVATE」っていう曲を作ろうと提案してくれました。その時に「クラブの中ですごくガチャガチャしてるけど、この2人の空間だけは周りが見えないぐらいのプライベート」だというストーリーも説明してくれて、そこもいいなと思いましたね、それからしばらくして、このアルバムをつくるとなった時に、この曲を入れたいと思って、CORNHEADさんとRudebwoy Faceというコンビネーションは絶対欠かせないなと思って入れさせてもらいました。


●なるほどなるほど。Rudebwoy Faceさんに関しては、レゲエに傾倒するきっかけとなった人ですもんね。

MION:そうですね。実際レゲエを始めるきっかけとなったアーティストさんたちと曲を作れるっていうのはめっちゃ嬉しいですね


S__93020169.jpg
●そこから10曲目の「She was」は失恋を思わせる曲ですよね。

MION:がっちり失恋の曲ですね。


●MIONさんに実際に起こったことかなと想像してしまうんですけど、MIONさんは実際の体験を歌詞にするタイプですか?それとも創作のストーリーを歌詞にするタイプですか?

MION:俺は現実に起こったことを歌にしていることが多いですね。物語を考えることもありますけど、最近そういう歌はあんまりないです。元々詩を書き出した理由が、ネガティブを忘れたり消すためなんです。自分にとっては音楽がネガティブをポジティブに変えるための道具という側面もあるので、歌にはネガティブな感情がたくさん入ることが多いかもしれないです。


●ビートも含めてMIONさんの曲には、寂しさや切なさや哀愁を感じることが多かったのですが、その哀愁はそういうところからきているのかもしれませんね。

MION:東北で寒い時期を過ごしているのもあるかもしれないです。雪の中でいろんなことを思うし、それがトラックに反映されている気がします。雪の冷たさや逆に寒い中での温かさなんかの雰囲気を大事にしていますね。


●次も女性の曲で、「My Super Model」という曲なんですけども、これは19Fresh(ワンナインフレッシュ)さんとMUDさんと制作されていますね。どういう経緯で、お二方と一緒に作ることになったんですか?

MION:大阪でお世話になっているプロモーターの人が、「このメンツでやったらめっちゃかっこよくない?」と提案してくれました。19FreshとMUDが混ざり合うことって俺がいなきゃなかったと思うんですけど、二人とも音楽の中でもめちゃくちゃ合うと思いましたね。


●ギャル系の曲ですが、トピックはどなたが提案されたんですか?

MION:19Freshがサビを先に作っていたのもあって、彼発信ですね。


●なるほど。フューチャリングのお二人ともそういった曲が得意なイメージもあるので、ぴったりなトピックですね。その次が「Skit~Station~」ということで仙台駅の新幹線のホームでの音をサンプリングしていますね。

MION:そうですね。新幹線とその車内のアナウンスですね。


●MIONさん自身が新幹線に乗る機会が多いですもんね。

MION:でも、基本は車行動なんで、関西でも車で行っちゃったりとかしますね。

プライベートな空間だし、車の方が好きですね。


●確かに車の方が自分の空間って感じがしますよね。しかしではなぜ、新幹線のアナウンスをスキットにしたのですか?

MION:俺は地元が仙台だったから帰ってきたみたいな雰囲気を作りたくて入れました。電車で地元が仙台だから新幹線の仙台のアナウンスを使おうと。


S__93020178.jpg
●次曲の「Step On The Noise」は大阪のJAGGLAさんと一緒に曲を作っていますね。

MION:ジャグさんは5、6年前ぐらいに、大阪での俺のライブを見に来てくれてそこで知り合いました。そこで俺の「糞みたいなLife」という曲をめっちゃいいって言ってくれて、そこからアルバムに呼んでもらってっていう関係ですね。


●「Step On The Noise」はどういう曲なんですか?

MION:これは昔の曲をもう一回録り直した曲なんです。これを最初に書いたとき、多分めちゃくちゃ病んでた時期なのかな。今はこんな歌詞書けないですね。


●その次14曲の「Calender」という曲なんですけども、この曲はどういうマインドで書かれたんですか?

MION:もっと忙しくなりたいっていう気持ちがあります。目標を立てるとスケジュールにいろんなことが入ってくるじゃないですか。だからそれがカレンダーになるというか。


●なるほど。その発想はなかったです。MIONさんは繊細で刹那的に生きているような面も感じさせるようなアーティストだと思っているのですが、地元仙台という場所がMIONさんにどういうふうに影響していますか?

MION:やっぱり都会から遠いので、逆にそれが特別という気がします。やっぱりシーンの中心は東京とか大阪とかだし、もちろんそっちに行くのに時間かかったりお金かかったりして、そういう部分がマイナスなことはあります。だけどそれでも仙台には特別なエネルギーがある気がしますね。


●仙台の人ってどういう県民性なんですか?

MION:おとなしいんじゃないすかね。物事とか言わない感じの人が多いのかなと思ってますね。人間も都会と田舎の間って感じです。


S__93020171.jpg

●週末のイベントの関係もあって、東京や関西に来られていることも多いですが、どこか別の場所に拠点を移すとかは考えていますか?

MION:海外に住みたいですね。カナダとか肌に合っていると思います。


●カナダに留学もされていましたもんね。どういうところがよかったですか?

MION:人がすごく良かったです。言いたいことを言えている人が多かったし、縛られてる人が少ないですよね。日本だと個性を消されたりすることも多いけど、そういう部分ってアーティストには絶対いらない部分だから。カナダに行ったら人間としてもアーティストとしてももっと磨けるんじゃないかなと思っています。


●ちなみに音楽に関しては今現在どういうのをMIONさん自身は聞かれてますか。

MION:何でも聞きますね。多いのはAfroBeatsかな。民族系のVibesが好き。


●確かにMIONさんのビートには、アフロビーツの影響も感じますね、踊りたくなるビートだと思います。ちなみに今までビートの提供は、どういったアーティストにされてきたんですか?

MION:プロデュースの部分で言えば、ヒップホップが多いです。


●歌入れのときのディレクションも、MIONさんがなさるんですか?

MION:こういう曲にしたいとかも含めて、ディレクションするときもあります。基本はアーティストにおまかせするんですけど、参考として言うこともありますね。


●なるほどなるほど。ビートを作ることと歌うこと。二足のわらじですが、その二つの作業がそれぞれにどういうふうに影響していますか?

MION:歌の面で言えば、トラックに困らない。ただ、やっぱり自分のトラックばかりだと飽きちゃいますね、人にちょっといじってもらうだけでかなり違うし、音楽には化学反応があると思いますしね。次のレベルでは、人と一緒にもっとやりたいです。あと、みんながやる気になるような歌を作りたいですよ。シンプルなんですけど、周りの俺の歌を聞いてくれてる人たちが全員成功すれば、自分もそうなれると思っています。


●「みんなで上がっていく」という感じですね。では最後にアルバム全体の聞きどころも含めて教えていただけましたらありがたいです。

MION:Skitもちゃんと聞いてもらいたいですし、すべてつながりがあるので、アルバム1枚を全部流して聞いてもらいたいです。


●スキットの元ネタのインタビューを探して聴いてみるのも楽しそうですよね。幅広くいろんな聞き方ができるアルバムで、一聴だけでなく、二聴、三聴することで、また新たな魅力を発見できそうです。


MionReleaseParty.jpg
iwate.jpg