Interviewd by Shunki Hirata
2年の制作期間を経て完成したHISATOMIのアルバム『アナクロリズム』。その舞台裏を語ってもらったロングインタビューを、前編・後編の二部構成でお届け。
前編では、アルバムタイトルに込めた意味や、90〜2000年代のレゲエに対する思いをたっぷり語ってもらった。
後編では、盟友コモリタカシとの関係や、775との共演、そしてリリックへのこだわりまで、よりパーソナルな側面に迫る。
2年かけて辿り着いた“アナクロリズム”という答え
──まずは、アルバム『アナクロリズム』完成おめでとうございます。リリースから少し経ちましたが、今の率直なお気持ちや、反響について教えていただけますか?HISATOMI:ありがとうございます。今回、プロデューサーのコモリタカシと二人で、2年くらいかけてじっくり制作してきた作品なので、ようやく無事にリリースできたということで、まずはホッとしています。同時に、関係者やリスナーの皆さんからのリアクションが、想像以上に好感触で、それも含めて嬉しいし、安心しているという状況です。
──関係者の方々からのリアクションも気になります。SNS上でも、MINMIさんなども反応されていましたよね?
HISATOMI:ああ、そうですね。MINMIさんとは時々制作で関わったりしているんですけど、今回の“アナクロな”、レトロなレゲエ感を出したこの作品も、すごく気に入ってもらえたみたいです。
HISATOMI:「アナクロニズム」はざっくりいうと時代錯誤、時代遅れという意味で、そこに“リズム”を掛けて『アナクロリズム』という造語を作りました。
──そのタイトルに込めた思いや、なぜこの言葉を選んだのか、背景があれば教えてください。
HISATOMI:今回のアルバムの世界観は、「楽園」という曲からスタートしました。DOZAN11さんをフィーチャリングした楽曲なんですが、90年代のラガヒップホップの世界観を再現してみようというところから始まったんです。
それで、レゲエでも最新のサウンドを追いかける人もいれば、ヒップホップで言う“ブーンバップ”的な、ちょっとイナたくて、でも深みのあるスタイルをやる人もいるじゃないですか。自分はどちらかというと後者。無理に最新を追わず、自分たちがカッコいいと思えるツボを探っていくスタイルでやっていて。アルバムを作りながら、ずっと“ぼんやり”とタイトルを考えていたんですけど、「アナクロニズム」という言葉を発見して、そのままだとってことでリズムをかけて、ちょっとオリジナルさを出しました。

HISATOMI:そうですね。自分も30代後半に差し掛かってきて、これから40代に向かうにあたって、無理のない雰囲気でやりたいなと。例えば、BPMが速くて4つ打ちでファッショナブルな曲は、もう若い子に任せて、自分は自分の熟練のスタイルを出していきたいと思って。そういう意味で、今回の方向性になりました。
──HISATOMIさんが影響を受けた90年代や2000年代の曲や思い出ってありますか?
HISATOMI:ありますね。例えば、タイトル曲の「アナクロリズム」の中でも「水割り 緑割り Diwaliから生まれた異端児」って歌詞があるんですけど、あれは2001年頃の“Diwali Riddim”を指しています。その辺りにドップリハマって始めてるので、まあどこに影響受けたかっていうとそこなんかな?
当時、どこのクラブに行っても必ずかかってるようなリディムで、本当にすごかったんですよ。
──自分はその頃のレゲエの雰囲気を知らないんですけど、映像みるとすごいですよね。
HISATOMI:今考えると、当時は本当に大ブームやったんやろなっていう感じがしますね。
──ここで、コモリさんにもお伺いしたいんですが、当時影響を受けた楽曲とかありますか?
コモリタカシ:さっきHISATOMI君が言っていたように僕らの世代は、ちょうどDiwaliが流行った時期に中学生ぐらいで、そこからレゲエを聴き始めた世代です。J-POPも好きだったんですけど、その中にも隠れてレゲエが入ってる曲って実は多くて。「これもレゲエなんや」って気づくことが多かったです。特に“ジャングル”っぽい曲がアニメのエンディングで使われていたりして、そういうところからの影響もあります。

”アナクロリズム”を彩る曲たち、制作の裏側
──ここからは、いくつかの楽曲についてお聞きします。まずはアルバムの冒頭を飾る「Introduction」について。レゲエとロックが混ざったような高揚感のあるインストが印象的ですが、どんなアイディアやイメージから生まれたのでしょうか?コモリタカシ:よくスタジオで、ジャマイカ人のライブ映像をYouTubeで一緒に見てるんですけど、バンドアレンジで登場するあの感じ、めちゃくちゃかっこいいんですよ。それを取り入れたいなと。
「アナクロリズム」を1曲目に持ってくることは最初から決まってたので、それに合うようにっていうのと、普段のHISATOMI君のライブでも使えるようなイントロを作ろうと思いました。キーも流れも全部狙って作ってます。実際、マスタリングの段階で曲間の余白も調整してるんですが「Introduction」から「アナクロリズム」へは曲間は短く、ライブみたいにガーンってつながるようにしてあります。3〜4曲目まで勢いでバンバンといくようなイメージですね。
──「アナクロリズム」を1曲目に持ってきた理由はありますか?
コモリタカシ:全部出揃ってから決めている感じですね。
──曲の内容はどうですか?
HISATOMI:やっぱりこれも逆走してますね。時代の逆走おじさんとして(笑)。これは2000年代のダンスホールですね。さっきいったDiwaliとかをイメージして、トラックをつくってもらって。
アルバムのタイトルを先に決めていたので、「アナクロリズム」という言葉に合う曲を作ろうと考えました。内容的にも、アルバム全体の世界観やコンセプトを説明するような曲になってます。
サビの「暗闇照らす」っていうフレーズは、実は21歳のときに初めてちゃんとリリースした曲のサビから引用してるんですよ。あのときは4人組のユニット「N-02」でやっていて、RED SPIDERプロデュースの『爆走エンジェル』に入ってます。ちょっと恥ずかしいですけどね。今でもApple Musicとかで配信してます。
ま、90年代とかその2000年代リバイバルに当たって、まあ自分もリバイバルしとくかと。これも“自分リバイバルおじさん”として(笑)。だから昔から知っている人は、ちょっとこうニヤッとするような内容になってます。
──その楽曲、今度聴いてみます。
HISATOMI:ちょっと恥ずかしいです。「4人がかりでも今の俺には勝ってない」っていう…(笑)

HISATOMI:そうですね。実際に今世の中で起きてることに対して怒ってる内容なんですけど、あんまり眉間にシワ寄せてずっと怒ってるような曲にはしたくなくて。
だから“Shall We Reggae Dance?”っていうワードを使って、踊れる歌にしようと。歌詞はそんな感じですね。トラックはどうですか?
コモリタカシ:そうですね。踊れる。4つ打ちの。
HISATOMI:リディムにラッパ、ホーンをチョイスしてもらったり、情熱的にはしてもらいました。
──そこは二人で調整して作っていく感じなんですか?リディムを作ってから歌を乗せる感じですか?
コモリタカシ:いや、基本僕ら同時進行です。 一緒に作って、歌詞出たらパッてこうこうって作って、歌詞変わってまたそれに対してここ変えてとか。まあボツになったのも3曲ぐらいあったし。なんか似てるなとか、あんま価値が出ない、広がれへんなと全然手つけなくなって。とか。
──二人でここはこうして欲しいとか言いながらですかね。
コモリタカシ:そうですね。分業です。
HISATOMI:基本的には僕はトラックにはあまり口出ししないんですけど、ちょっとした「ここだけ変えて」くらいは言いますね。信頼して任せてます。
コモリタカシ:一緒にスタジオにいてるときに、もしやりたくないものがあったらその時間がもったいないので、トラックを構築している段階で「これどうですか?」って確認したりしますね。逆に、まだトラックができてない段階でもメロディー入れさせてとかもあるし。そんな感じで、お互いにアプローチし合ってます。
──この曲の前に入ってるスキットとの繋がりも意識してましたか?
コモリタカシ:完全に僕の独断です。前半・後半を分ける切り替えとして入れてて、後半は「Do the Reggae Man」「ボスリタイ」とか“レゲエしてます!”みたいな世界観でまとめてます。
──今「ボスリタイ」っていう曲が出てきましたけど、今回音源になるのは初めての曲なんですよね。
HISATOMI:そうですね。ただこれ、2年前には完成してたんです。レゲエあるあるを1つにまとめた曲を作って、「でもシングルで出すほどのもんか?」って悩んでたんですよ。
結果的には今回のアルバムの中で、めっちゃええポジションにおさまってくれました。
──どの曲にも言えるんですが、ワードセンスや韻の踏み方が面白いですよね。それは昔から意識していたことですか?
HISATOMI:最初から上手くできたわけじゃないですよ。でも気づいたら、誰よりもできるようになってた!?(笑)
今回はとくに“言葉の組み方”とか、“意味の引っかけ方”、“たとえ”や“メタファー”に特化して曲を作ろうって決めてました。
メロディーってより、リリシストとして捉えてもらえるように意識してました。
──そこに特化する理由は?
HISATOMI:自分の中で、世の中に送り出せる武器って、それしかないと思ってるんです。売りになるのはリリック。それを突き詰めていきたかったんです。
HISATOMI 後編『僕にとってのAZITOは、ただの“ファミリー”って言葉では足りないぐらいの関係』https://sd.reggaezion.jp/articles/hisatomi_interview2