Text & Interview By Takashi Watanabe

協力隊への挑戦と新たな一歩

それでは、JICAボランティア(旧称:青年海外協力隊)への応募について教えてください。

夏美:JICAボランティアに応募したのは、ジャマイカで本格的に活動したいという強い思いがあったからです。ただ、それだけではなく、長くジャマイカにいるための方法としてもJICAボランティアに目をつけました。実際、半年間ジャマイカで過ごしてみて、本当に現地で生活することの難しさを痛感しました。物価と賃金のアンバランスが激しく、現地の企業で就職しても十分な収入を得るのは非常に厳しいと感じました。だからこそ、しっかりと腰を据えて活動しながら生活を続けられる方法を探して、JICAボランティアに辿り着いたんです。

ただ、面接の際に「ジャマイカしか行きません」と伝えたため、2回も落ちてしまいました(笑)。でも諦めずに3度目の正直で合格できたんです。それが2018年のことでした。

この合格は、本当に大きなチャンスだと思いました。2年間という任期で、いかに自分の根をジャマイカに張って活動を確立できるかが鍵でした。やっと掴んだチャンスだったので、この2年でできることを最大限やりきろうと思いました。

コロナ禍と緊急支援活動

ところが、その途中でコロナが起きましたよね?
夏美:そうなんです。2020年にコロナが発生して、世界各国に派遣されていたJICAボランティアが完全撤収となりました。周りは怒りや落胆でいっぱいでしたが、私は次に何をすべきか、どうやって再びジャマイカで活動を続けられるかを常に考えていました。

そこで緊急的に何かできることはないかと考え、ジャマイカの友人たちが観光客に売るはずだった商品をフェアトレード商品として日本で販売することにしました。ジャマイカでは、行政からの支援がほとんど無かったので、無収入になってしまった人たちを支えるための取り組みです。儲けは一切なしで、物を買って日本に取り寄せ、それを販売して現地に還元する形で支援を始めました。

NPO法人「LINK UP JAJA」の設立

その取り組みが後にNPO法人設立に繋がったんですね?

夏美:そうです。2020年12月にNPO法人LINK UP JAJA(リンコップジャジャ)を設立しました。最初はフェアトレード事業を中心に始めましたが、翌年から本格的に障害者支援の活動を展開することになりました。以前から問題意識を持っていた分野で長期的に取り組もうと決め、障害者支援へとシフトしていったんです。

また、コロナの間も、半年間と3ヶ月間、個人的に自費でジャマイカに渡航し、現地での活動を続けていました。2023年1月にようやくJICAボランティアから「ジャマイカでの活動再開の準備が整った」と連絡があり、再び派遣されました。これで正式にJICAボランティアとしての活動を再開できました。

さをり織りを通じた障害者支援

その後、ジャマイカでさをり織りを使った障害者支援も始めましたね?
やったぜ!!先日のマーケット出店の売上を、さをり織りに取り組んだ支援学校卒業生たちに還元 小銭程度しかわたせませんでしたが、彼らにとっては人生初の「お給.jpg

夏美:そうです。さをり織りとの出会いは偶然でしたが、これだと思いました。さをり織りとは、1968年に城みさを氏が大阪で始めた手織りで、年齢や障害を問わず誰でも自由に自分を表現することを目的としています。 ひとりひとりが持つ個性や感性を織り込む、つまり「差異を織り込む」というのが語源になっています。この技術をジャマイカに持ち込み、障害者の社会参加を支援する手段として活用しています。 最初は受託手荷物として自力で運びジャマイカに持ち込んだ織り機一台を活用し、障害を持つ人たちに教えるところから始めました。活動を通じて、彼らが社会と繋がり、少しずつ自信を取り戻していく姿を見るのは本当に嬉しいことです。まだ課題は多いですが、社会に居場所がなく、家でじっとしているしかなかった障害者が社会との繋がりを取り戻し、少しでも収入を得て自立に近づいた意味は大きいと思っています。この取り組みを続けるため、個人や企業から支援を獲得することはもちろん、フェアトレード事業にも注力して安定した法人運営を実現したいと思っています。

日本のレゲエシーンからのサポート

日本のレゲエシーンからも支援があったと伺いましたが?

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夏美:そうですね、カエルスタジオの支援には感謝しています。彼らはジャマイカの学校へ楽器を寄贈するため資金を提供してくれて、NPO法人LINK UP JAJAは現地で学校との調整や楽器購入、運搬と寄贈を担いました。楽器は音楽教育の基盤であり、現地の子供たちにとって非常に貴重なものです。およそ100万円を預かり、6つの学校にギターやベース、キーボードやパーカッションなどの楽器を寄贈しました。未来のアーティストが育つ機会が増えたことを嬉しく思います。


ジャマイカこども食堂 vol.2 当初20人と聞いてたけど結局50人弱こどもが集まって、えらい騒ぎにwパティー、ジュース、お土産の食料品プチ詰め合わせセットを提供 おがちゃん.webp

それから、OGAちゃん(JAH WORKSのOGA)にも大変お世話になっています。彼は地域の子どもたちに食事を振舞い、日本の文化を紹介するなどして交流する「ジャマイカ子ども食堂」の運営資金を提供してくれています。また、就学支援のための「BACK TO SCHOOL」プロジェクトを通じて、現地の子供たちが必要な制服や文房具を手に入れられるよう支援してくれています。ジャマイカでは現在、公立学校の授業料は無料ですが、制服や教科書は自己負担であり、就学準備に児童ひとりあたり数万円かかります。1着5,000円から8000円ほどする制服を買い揃えることや、毎年度購入を求められえる教科書代10,000円は、特に貧しい地域の子供たちにとっては大きな負担です。OGAちゃんのプロジェクトは、そうした困難を少しでも軽減するために行われていて、地域のお母さんたちから「感謝してもしきれない」とお礼を言われるほど感謝されています。法人名にある「LINK UP」とは、ジャマイカ訛りで「リンコップ」と発音し、つながる、会いに行く、という意味ですが、OGAちゃんの支援を通じて日本のレゲエファンがジャマイカの子どもを支える取り組みが実現し、NPO法人LINK UP JAJAとしても誇らしく、嬉しく思っています。

アントニーとの出会いと彼の姿勢

TV番組「グッと地球便」の放送で拝見した障害者アントニーが印象的でした。

'See mi yah!' We will be there with our weavers and their products Join us on Sunday, October 6th for Conu’co Market- Heritage Edition! Celebrate our Jamaican culture, shop from over 100 curated local artisans, eat good food, and e (2).webp

夏美:アントニーは私にとって特別な存在です。彼は障害を抱えながらも、自分なりに生活を築いていて、物乞いをしながら生計を立てていますが、それは単なる物乞いではなく、彼にとって自立の手段なんです。先日、印象的な出来事がありました。


DING DONGが大きなステージショーでアントニーをステージに呼んで、「ピープル、こいつはゲットーユーツや。でもそれが何かを諦める理由にはならないんや。自分は道に座って何もせず、人が一生懸命働いて得たお金で酒を買ってもらおうとか思ってる奴ら、そんなん無理やから。俺ゆうとくわ」と観客に伝えました。アントニーは、DING DONGのメッセージのもと、多くの観客の前に立ち、堂々とステージに上がったんです。

彼が自立した姿勢でステージに立ち、DING DONGの言葉が響く中、その場を盛り上げる様子を見て、本当に感動しました。アントニーは、その瞬間、自分の生き方や姿勢を通じて、人々に強いメッセージを届けていたのです。こういう瞬間があるからこそ、「だから私はレゲエが好きなんだ!」と改めて感じました。

今後のビジョンと目標

今後の活動において、どのようなビジョンや目標をお持ちですか?

夏美:現在は、ジャマイカで行っている障害者支援活動の基盤をより強固にすることが第一の目標です。今は、さをり織りを通じて障害を持つ人たちが社会と繋がり、居場所や生き甲斐を持てるよう支援していますが、最終的には拠点を持ち、もっと多くの人をサポートできる体制を整えたいです。 日本でも、地域に根ざした活動を展開するためには拠点が必要です。ジャマイカでも同じで、障害を持つ人や地域の人たちが安心して集まり、活動できる場所を作りたいと思っています。 将来、ジャマイカの障害者が社会の中で自立生活を送ることができる仕組みが出来るのが理想ですが、そのためには制度改革の実現が必要で、ジャマイカの障害者や国民が政治を動かす必要があります。これは簡単なことではないので、現実的には限られた法人の予算内で今出来ることに着実に取り組み、一歩ずつ進んでいくしかないと思っています。さをり織りは単なる仕事づくりではなく、ジャマイカの障害者が自分の声を社会に届けるツールです。障害者自身が力をつけて、マーカス・ガーベイやボブ・マーリーのように声をあげ、社会を変える主体となっていけるよう、NPO法人LINK UP JAJAはこれからも後方支援を続けていきます。

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行動を起こすためのアドバイス

こうした活動において、やりたいと思っても行動に移せない人も多いと思います。そういった方々に対して、何かアドバイスはありますか?

夏美:やっぱり、まずは身近なところから始めてみることが大切だと思います。私自身も、最初は地元のコミュニティや日本の障害者支援の現場で活動していました。それが今、ジャマイカでの活動に繋がっています。

例えば、家族や友人の中に困っている人がいたら、その人のために何ができるか考えてみたり、地域のイベントに参加してみたりすることが一歩です。また、世界に目を向けて、遠くの国で困っている人たちをサポートすることも意義があります。シリアやアフリカの難民支援、ジャマイカの子供たちへの支援など、様々な方法があります。

やってみたいと思うことがあれば、まずは何か小さなことから始めると良いです。やりながら学んでいけば、自然と自分の役割が見えてくると思います。大きなことをする必要はありません。自分のペースで、できる範囲で行動することが大事だと思います。

夏美さんの好きなレゲエアーティスト

着うた時代にレゲエザイオンを使っていただいていたと伺いました。ありがとうございます!最後に、夏美さんの好きなレゲエアーティストを教えていただけますか?

夏美:もちろんです!私はROMAIN VIRGOが大好きで、まず顔が男前なんですよね(笑)。出てきたときは、ゲットーユーツっぽい感じだったのに、今は洗練されたジェントルマンって感じで、体もめっちゃムキムキになってて驚きました!でも、彼の音楽は見た目以上に素晴らしいメッセージ性があって、心に響くんです。

乗り合いタクシーなんかで新しいダンスホールチューンを耳にしますが、面白いな、前向きでかっこいいな、と思うものもあるけれど、耳を抑えたくなるほど歌詞が暴力的だったり、物質主義的でうんざりしたりすることも時としてあります。それに対して、ROMAIN VIRGOの曲はクリーンで、メッセージがしっかりしていて、癒されるんですよね。

最近は、ROMAIN VIRGOの「Been There Before feat. Masicka」が特に好きです。彼の音楽は、心に響くメッセージを伝えてくれるので、本当に素晴らしいです。


貴重なお話とレゲエのおすすめまで、ありがとうございました!私たちも自分にできることから、少しでも力になれればと思います。


「前編:レゲエとの出会いからジャマイカへの道」はこちら




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